コーチとしてコーチングを実施しているけど、なんだかうまくいかない。クライアントは、「変わりたい」と口では言い続けているけど、ちっとも行動しない…
もしかすると、行動しないのではなくて、行動できないのかも?メンタルは大丈夫かな?もしかして、そもそもコーチングではなくて、カウンセリングの方が向いてる?
でも、、、そもそもカウンセリングとコーチングの違いってなに?
そして、コーチングとカウンセリング、どちらがクライアントに向いているのか、どうやって判断したらいいのだろう?
こんなお悩み、ありませんか?
この記事では、このような悩みを抱えて悶々としているコーチに向けて、コーチングとカウンセリングの違い、そして、どちらが適切か判断する方法をお伝えします。臨床心理士、そして、プロコーチである著者が、これまでの経験と知識を元に、他ではあまりいわれていないカウンセリングとコーチングの違いについて解説します。そして、同じ相談内容に対し、カウンセリングとコーチングでどのように対応するか、例を用いて説明します。
そのため、この記事を読めば、
- どのような場合に、コーチングよりもカウンセリングが適切なのか判断できる
- コーチングが適切なクライアントに、コーチングを提供できる
ようになります。ぜひ最後までお読みください。
著者:藤田琴子
CTI認定CPCC® | 臨床心理士 | NLPマスタープラクティショナー
オンラインコーチング実績約900件、オンラインカウンセリング実績約1,400件
【臨床心理士兼プロコーチが解説】コーチングとカウンセリングの違い
カウンセリングもコーチングも、対話を通じて個人の成長を支援します。そして、カウンセラーやコーチがクライアントに質問をして、クライアントがそれに答える、という対話の流れは同じです。
カウンセリングとは
カウンセリングでは、カウンセラーはクライアントの問題やストレスについて傾聴し、共感します。そして、クライアントが感情や考えを整理し、それらのストレスや問題に自分で対応していけるように支援します。
そして、クライアントの自己理解や自己受容が進むよう、必要に応じて、心のメカニズムや認知、ストレスコーピングやコミュニケーションなど、知識やスキルを伝えます。これは「心理教育」と呼ばれており、カウンセリングの重要な一部です。
カウンセリングの目的は、療法やアプローチによって異なります。しかし、「生きづらさ」や「耐えがたいストレス」、「日常生活への支障」を抱えるクライアントが、カウンセリングを受ける前より少しでも楽になれるよう支援する、という部分は共通しています。
コーチングとは
一方、コーチングでは、クライアントが潜在能力を最大限に発揮し、より良い人生を送れるよう支援します。
コーチングの目的は、目標達成と自己実現です。コーチは、クライアントが自分自身の価値観や願いを理解できるようサポートします。そして、目標に向かって行動しながら、願いや価値観を体現し、自己実現に向かうよう伴走します。
カウンセリングとコーチングの違いとは?
このように、カウンセリングとコーチングには違いがあります。
ただ、カウンセリングを受けるクライアントとコーチングを受けるクライアントが、明確に分かれているわけではありません。私自身、カウンセリングとコーチングの両方を提供していると、コーチングを受けていたクライアントがカウンセリングに移ったり、カウンセリングを受けてい方がコーチングを受けることになったり、ということは、それほど珍しくありません。
また、一般的に、カウンセリングはマイナスからゼロ、コーチングはゼロからプラス、と言われがちですが、そこも完全に言い切れるわけではありません。例えばカウンセリングでも、臨床心理学では、マイナスからゼロへのプロセスを支援します。一方、比較的新しいポジティブ心理学は、ゼロからプラスを目指すアプローチです。
更に、よくいわれることとして、「カウンセリングは過去、コーチングは未来に焦点を当てる」があります。ただこれも、比較的新しいカウンセリング療法である「解決思考アプローチ」は未来志向ですし、コーチングで自分を制御する力を理解するために、腰を据えて過去に向き合うこともあります。
とすると、両者の違いは、一体どこにあるのでしょうか?
コーチングとカウンセリングの決定的な3つの違い
先ほど触れた通り、一般的にいわれがちなカウンセリングとコーチングの違いは、下記の2つです。
- 扱う領域の違い
- カウンセリングは、「マイナスからゼロ」
- コーチングは、「ゼロからプラス」
- 時間軸の違い
- カウンセリングは過去に焦点を当てる
- コーチングは未来に焦点を当てる
一方、臨床心理士、そしてプロコーチとして、私が個人的に考えるカウンセリングとコーチングの決定的な違いは下記の3つです。
- アセスメントの有無
- 行動の重要度
- 目指す状態の違い
それでは、それぞれの違いについて詳しく解説します。
アセスメントの有無
1. カウンセリングでは、アセスメント命!
アセスメントとは、「クライアントの情報を理解し、解釈し、仮説を立てること」です。そして、アセスメントは、生物的、心理的、社会的な側面から多面的に行います。
カウンセラーは、クライアントから得た情報を自分なりに解釈し、なぜ問題が生じているかについて仮説を立て、その上で、クライアントがどんな人でどのような支援を必要としているかを明らかにしていきます。
例えば、AさんとBさんから、同じ主訴(相談内容)が寄せられたとします。
「まわりとのコミュニケーションに、非常に苦労しているんです」
それぞれの状況は、
Aさん:35歳男性・既婚・妻と小学2年生の息子と暮らしている
日本のメーカーから外資系コンサルに転職。在宅勤務のため、上司やチームメンバーと顔を合わせたことがない。関係性が築けていないため、必要な情報が得られない。
「なので、まわりとのコミュニケーションに、非常に苦労しているんです」
Bさん:28歳女性・未婚・実家で暮らしている
小学生の時から人と話すのが苦手。これまで友人と呼べる人は殆どいない。両親が不仲で、父親はアルコール依存症。家庭でも心が安らがず、人が怖いし、信じられない。
「なので、まわりとのコミュニケーションに、非常に苦労しているんです」
パッと読んだだけでも、「AさんとBさんの主訴は同じでも、状況はずいぶん違うな」と感じたのではないでしょうか?
その「違い」を紐解いていくために、カウンセラーは、
- いつから、どれぐらい、その問題に悩んでいるのか?
- 周りの人との関係はどうか?
- 今、どのような状況に置かれているのか?
などを明らかにする質問をしながら、クライアントの理解を深めます。そして、「なぜ、コミュニケーションに苦労しているのか?」について、「新環境への適応の問題?」「愛着に問題?」など、問題の成り立ちについての仮説を立てます。その上で、クライアントはどんな人でどんな支援が必要か、明らかにしていくのです。
このように、カウンセリングでは、クライアントに適切なサポートをするために、アセスメントを非常に重視します。
2. コーチングでは、アセスメント不要
一方、コーチングでは、情報収集を目的とした質問をすることは殆どなく、アセスメントは一切行いません。コーチングでは、「事実関係についての詳細な事柄はクライアント本人が誰よりもわかっている。そのため、コーチは状況の詳細について、把握する必要はない」という前提です。そして、今、ここで何を感じているか?何が起きているのか?を最も重視します。
例えばコーチングで、Cさんが先ほどのAさん/Bさんと同じテーマ(相談内容)をあげたとします。
「まわりとのコミュニケーションに、非常に苦労しているんです」
コーチは、Cさんの状況をアセスメントしません。その代わりに、例えば、こんな質問をします。
- 「『コミュニケーション』というテーマを話すことは、あなたにとってどんな意味がありますか?」
- 「あなたにとって、理想のコミュニケーションとは?」
- 「人とどんな関係を結びたいと思っていますか?」
- 「『コミュニケーションとはこうあるべき』という無意識の前提があるとしたら、それはどんな前提ですか?」
- 「理想のコミュニケーションができたとすると、あなたの人生はどんなふうに変わりますか?」
コーチングでは、「クライアントは、今、この瞬間から未来を創っていく力がある」という前提に立ちます。そのため、コーチはアセスメントをすることなく、「今」について直接質問し、そこから新しい現実を創っていくのです。
3. アセスメントの有無により、質問の投げ方が変わる
このように、カウンセリングではアセスメントは非常に重要ですが、コーチングではアセスメントをしません。そして、この違いにより、質問の投げ方が変わります。
キャッチボールに例えていうと、
- カウンセラー:
- クライアントが受け止めることのできるボールを、ふんわりと投げる
- コーチ:
- クライアントはどんなボールでも受け取れる前提で、直球をずばっと投げる
カウンセラーは、クライアントが受け取れるボールを受け取れるだけ投げます。特に、聴きすぎないよう、心を開きすぎないよう、深く掘りすぎないよう、最新の注意を払います。そして、カウンセリング終了時には、日常生活に支障が出ることのないよう、「開けた蓋」は必ず閉めます。
一方、コーチングの質問は、直球勝負です。どんな質問でも受け取れる前提でひとまず投げ、クライアントの反応を見ます。そして、クライアントの反応によって、次に投げるボールの強さや角度を調整する、そんな違いがあります。
行動の重要度
1. コーチングでは、行動が超重要!
2つ目の違いは、行動の重要度です。コーチングでは、とにかく、行動が大事です。なぜなら、コーチングとコーチングの間に行動することにより、学びが生まれ、変化と成長が促進されるからです。
変化の起きるタイミングも、コーチと話す45分〜1時間の間に直接起きることよりも、コーチングとコーチングの間に起きることが多いです。そのため、コーチングでは、行動することを非常に重視します。
2. カウンセリングでは、「結果的に」行動が変わることがある
一方、カウンセリングは、気づきを促し、自己理解と自己受容を深めることを重視します。もちろん、その結果行動が変わることはありますが、あくまで「結果として」です。そのため、「行動の重要度」は、カウンセリングとコーチングとの大きな違いといえます。
また、カウンセリングでは「行動」というと、「行動化/アクティングアウト」が想起されるため、マイナスなイメージさえあります。
- 行動化:
- 無意識的な感情や葛藤、欲求を抱えきれずに、無意識に行動に移すこと
- 行動化は、感情や葛藤、欲求に適切に対応するのが難しい場合におきがち
例えば、カウンセリングで自分自身の感情と向き合い続けるうちに、日常生活でも、これまで押し込めてきた怒りや不安が衝動的に行動に表れることは珍しくありません。そして、カウンセリングでは、こうした行動化のパターンを理解し、それを言語化することで、クライアントが感情や内面の葛藤をより適切に対応できるよう支援します。
*なお、カウンセリングの中でも、「行動療法」のように「行動の変化」を重視することもあります。「行動療法」では、敢えて不安と感じる行動をすることで、不安を軽減させることを目指します(暴露療法)。
目指す状態
1. コーチングで目指すのは、「変化すること」
3つ目の違いは、目指す状態です。コーチングは、変化することが目的です。コーチは、「クライアントは、変化によって引き起こされるどんな変化にも対応できる力がある」という前提に立ち、クライアントを信じて思い切りぶつかります。
このようにコーチングでは「変化」を目指すので、
- コーチングを受ける前と後で、どれぐらい変わったか?
- どれぐらい視点が変わったか?
- どれぐらい感覚が変わったか?
などの視点は、コーチングの効果を考える上でも、とても大事です。
2. カウンセリングで目指すのは、「楽になること」
一方、カウンセリングで目指す状態は、「楽になること」です。カウンセリングの目的は、療法やアプローチによって異なりますが、「カウンセラーは、クライアントがカウンセリングを受ける前より少しでも楽になれるよう支援する」という部分は共通しています。
また、先ほど述べた「カウンセリングを受けた結果として行動する」と同じように、「カウンセリングを受けた結果として変化する」もあり得ます。ただ、変化そのものをカウンセリングの主目的と置くことはまれでしょう。
なぜなら、カウンセリングの場合、「一気に急激な変化を引き起こさない」よう細心の注意を払っているからです。
というのも、クライアント本人は現状を「問題」と捉えていても、今の状態には理由も背景もあり、「一応のバランスが取れている状態」なのです(本人にしんどさがあるとしても)。そのため、一気に問題を解決してしまい、「なんとか保っていたバランス」が崩れて日常生活に支障が出たり、かえってしんどさが増すようでは逆効果です。そのため、カウンセリングでは「変化」を慎重に取り扱います。
どちらが適切か?迷った時の判断方法
このようにカウンセリングとコーチングには様々な違いがあります。
でも、「カウンセリングはマイナスからゼロ、コーチングはゼロからプラスを扱う」「だから、カウンセリングはメンタルを病んでいる人が受けるもの」と捉えられる面があるからか、コーチングの方が「とっつきやすい印象」を受けやすいようです。しかし、目的や状態により適切なアプローチを選ぶことが大事です。
カウンセリングとコーチング、どちらが適切か迷ったら、
- なにを求めているか?
- 行動をするエネルギーはあるか?
により、アプローチを選びましょう。図解すると、下記の通りです。
なにを求めているか?楽になりたい?変わりたい?
まず、最初に考えるべきことは、「受けることで、どんな状態を求めているか?」です。
求めているのが「今より、少しでも楽になりたい」という場合、カウンセリングが適切です。
そして、求めているのが「変わりたい」場合、2つ目の質問に進んでください。
行動するエネルギーはあるか?
次に考えるべきは、「変わりたい気持ちはある。では果たして、変わるために行動するエネルギーは十分にあるか?」です。
コーチングでは「行動」することを重視します。なぜなら、行動をすることで学びが生まれ、そこから更に行動をすることで、変化と成長が促進されるからです。
しかし、「今の状態を変えたい!変わりたい!」という思いは強いものの、「変わるために実際の行動を取るエネルギーはない」という方は少なくありません。そして、行動するエネルギーがないのにコーチングを受けた場合の弊害は、自己効力感(自分はやればできる、という気持ち)が下がることです。
- コーチングを受け、行動目標を決める
- エネルギーがないので、行動できない
- 次のコーチングで、コーチにできなかったことを報告する
- ①〜③が続くと、自己効力感が下がる
こんな風に、コーチングを受けたことで、受ける前より自己効力感が下がっては、元も子もありません。
コーチも、クライアントと接していて、「あれ?なんかおかしいな?」と思ったら、こんな風に、エネルギーの大切さを説明しつつ、質問してみましょう。
- コーチングでは、行動することを重視します。なぜなら、変化と成長のために、行動し、そこから学びを得ることは欠かせないからです。
- でも、行動を続けるためには、心のエネルギーが必要です。ガソリンのない車は走れないように、心のエネルギーがないと、行動することはできません。
- とすると、今、XXさんの心のエネルギーはどれぐらいですか?10が満タン、0が空っぽだとすると、どれぐらいでしょうか?
個人的な感覚値ですが、エネルギーが5より少ない場合は、まずはカウンセリングを受けて「エネルギーを貯める」ことが必要なのではないかと思います。
そのため結論としては、「変わりたい気持ちはある。では果たして、変わるために行動するエネルギーは十分にあるか?」という質問に対して、答えが
- ある場合 ▶︎ コーチング
- ない場合 ▶︎ カウンセリング
が適切なアプローチとなります。
適切なアプローチを選ぶ重要さ
カウンセリングもコーチングも、対話を通じて個人の成長を支援します。そして、カウンセラーもコーチも、クライアント本人が答えを持っていると信じ、自分で進んでいけるようになるのをサポートする、ということも同じです。
何より、カウンセリングにしてもコーチングにしても、クライアントの「現状をなんとかしたい」「自分で色々やってみたけどどうにもならなかった。だから専門家/プロにお願いしたい」という切実な思いは共通しています。
その上で、この記事では、カウンセリングとコーチングの決定的な3つの違いについて解説しました。
- アセスメントの有無
- 行動の重要度
- 目指す状態の違い
繰り返しとなりますが、多くの人にとって、カウンセリングよりコーチングの方が受けやすい印象があります。実際、両方を実施していると、コーチングの枠に「カウンセリングが適切」な方からのお申し込みがあったことは数え切れません。
でも、心のエネルギーがない時にコーチングを受けるのは危険です。なぜなら、逆に自己効力感が下がるからです。ですので、コーチの方は「行動ができていないな?」「なんかおかしいな?」と感じたら、「クライアントには、継続的に行動するエネルギーがあるかどうか」をきちんと確認し、必要な場合はカウンセリングを勧める、という判断が必要です。
それにより、コーチングが適切な方に対し、コーチングを提供していけるようになると思います。
いかがでしたでしょうか?カウンセリングとコーチングの違いや、どちらを受けるかの判断基準は理解できましたか?この記事があなたのお役に立てば、幸いです。
直球ボール、確かにってとっても納得でした。ニュアンスの違いもわかり易く表現されててとっても参考になりました。自分自身への対応も含めて早速使わせて頂こうと思います。ありがとうございます
ぺこさん!いつも読んでくださって嬉しいです!ありがとうございます。ニュアンスの違いが伝わったとのこと、書いた甲斐がありましたー!!!